院長コラム
おたふくかぜ(ムンプス)ワクチンは1989年から1993年はMMRワクチン(麻しん・おたふくかぜ・風しんワクチン)として定期接種されていたが、無菌性髄膜炎の合併頻度が高く中止となった。現在は任意接種となっている。
神戸市では2020年10月から1~2歳のお子さんにおたふくかぜワクチン接種に2000円の助成がつく。多くの小児科医はおたふくかぜワクチンも定期接種(みんな無料)になったらいいのにと思っている。
おたふくかぜなら、子どものうちにかかったらいいのではないかと考える方もおられると思う。
大人になってかかると精巣炎になって不妊になることがあるから、子どもの時にかからなかったら、男の子はおたふくかぜワクチンを接種しようかなと考えるかた方もおられるかもしれない。
私も就学前までにおたふくかぜになってない子には接種を勧めていた。しかし、おたふくかぜのあとに難聴になった女の子に出会ってから、これはまずいと思うようになった。
日本耳鼻咽喉科学会が2015~2016年のムンプス流行に伴うムンプス難聴発症の全国調査(70%回答率)を行い、2年間で少なくとも359人がムンプス難聴を発症していることを報告した1)。
これは耳鼻科の先生が診断された症例の集計で、小児科で見ている症例は含まれておらず、本当の数はもっと多いことになる。
近畿外来小児科学研究グループの3年間(2004~2006年)の前向き調査ではムンプス患者7400人のうち7人のムンプス難聴が確認され、1000人に一人の頻度(0.1%)でムンプス難聴が発症すると報告している2)。
成人がおたふくかぜになった場合にも難聴になることがある。ムンプス難聴は95%が片側のみであるが、90%以上が高度難聴で、改善していたのは5%と報告されている。ようするに発症すると生涯、片側の難聴になってしまう人が多いということになる。片側が多いから親も気づきにくいことがあるかもしれない。
私の出会った症例も本人が言うまでは親も気が付かなかったそうである。本人は片方からしか音が聞こえないので音の方向性がわかりにくく、以前とは何か変だと不自由をしていると思う。
こういう生涯残る後遺症があるなら、おたふくかぜにかからないように予防するのがいい。
おたふくかぜワクチン接種の合併症で気になるのが無菌性髄膜炎である。
ワクチン接種後の無菌性髄膜炎は0.03~0.06%と報告されている1)。おたふくかぜにかかった場合に合併する無菌性髄膜炎の頻度は1.24%であり、それよりは少ない。無菌性髄膜炎は後遺症なく回復するが、発症すると発熱、嘔吐、頭痛も強くてかなりしんどい。ワクチン接種後になってしまわれる方には本当申し訳ないが、頻度は低いので了解いただきたい。
ムンプス難聴にならないためにも、おたふくかぜワクチンで予防する方がいい。
おたふくかぜにかかったことのないお子さん、お父さんお母さんもおたふくかぜワクチンを接種しましょう。
1)岡部信彦、多屋馨子.予防接種に関するQ&A集2019 日本ワクチン産業協会
2)https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-sp/2254-related-articles/related-articles-402/3789-dj4025.html
小児科からみたムンプス難聴について-国立感染研究所
著者 たかのこどもクリニック 院長 高野智子
アレルギー
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